Vizbi 2011 最終日: チュートリアルセッションからProcessing談義まで

Vizbi 2011の記念品


Vizbiでのチュートリアルは今年から設けられたセクションで、アプリケーションごとに講師が一〜二人割り当てられ、前半が講師による解説やハンズオン形式のトレーニング、後半はそれぞれのデータなどを持ち寄って自由にディスカッションしたり質問したりと言う形式。私はCytoscapeのセッションでユーザーからの質問に答えたりするヘルプを行っていたのだが、全く初めてのユーザーがどこでつまずくか、今のチュートリアルドキュメントで抜けている部分は何か、と言った点を確認する事が出来て有意義だった。やはりここでもビデオチュートリアルの要望が多かったので、早急に取りかかりたい。ちなみに、最近のCytoscape関連のチュートリアルここに集めてあるので、興味のある方はぜひお試しを。残念ながらフライトの都合で後半は参加できなかったのだが、長めに取られていたランチタイムに様々な人と話す事ができたので、乗り継ぎ地のシカゴへ向かう飛行機の中で忘れないうちにメモしている。

今回チュートリアルセッション用に選ばれたソフトウェアの一つにProcessingがある。このセッションの講師としてJer Thorp氏が招かれていた。意外な事に、彼は元々生物学を学んでいて、ウェットなラボでの経験もある。ただし、どうもその仕事は好きになれなかったらしく(今のような洗練されたウェットラボ用のロボティクスはまだ当時存在せず、地道な作業に嫌気がさしたとの事)、次第にコンピュータ系の仕事に傾倒して行き、現在のようにコンピュータを使ったアートとサイエンスの中間のような事を生業とするに至ったらしい。ニューヨークタイムズ紙で最近よく見る事が出来る、インフォアートとでも呼べるデータを可視化は彼の手によるものも多い。彼自身のポートフォリオサイトから素晴らしい作品の数々を見ることが出来る

彼と話していて印象深かったのは、「データ可視化の普遍的なベストプラクティスなどと言うものは存在しないかもしれない」と言うポイントだ。これは、次元の低いデータならばともかく、多数のデータを(データポイントの数と言う意味でも、種類の多さと言う点でも)どのように見せるかと言う点で、解は常に大量に存在するためだ。例えば、「時間と量の関係」ならば、Excelのグラフ作成ツールで用意に可視化出来る。しかしこれが10種類のパラメータと10,000のサンプルからなるデータだったら・・・?こういった問題に関する一般的な答えと言うものは無い。オーディエンス、目的などを吟味しながら、臨機応変に対応するしかない。一方で、キーノートでのTamara Munzner教授の講演(後ほど詳しくレポート予定)では、可視化のアンチパターン(経験則をまとめた「やってはいけない」パターンの集積)と呼べるものをたくさん紹介していて非常に納得できる点が多かったので、悪い例を避ける事によりベストな方向を探してゆく、と言う手法はあるかもしれない。

話はopenFrameworkscinderと言った最近流行りはじめているフレームワークにも及んだ。彼の感想としては、両者ともとてもパワフルだが、裏を返せば、それはローレベルなAPIに薄いラッパーをかぶせて使うようにしてあると言う事で、手軽さと言う点ではまだProcessingには及ばない。C++ベースのフレームワークは、OpenCVなどと組み合わせて利用する場合、OpenGLを使い込みパフォーマンスをギリギリまで追求する場合などにはアドバンテージが非常に大きいので、お互いに共存してゆくような関係になるのではないかとの事だった。更に、Processingの実装に使われているJavaは誕生時とは全く違うレベルの最適化が行われ、パフォーマンス的にはかなりの規模まで対応できるようになっている。そしてProcessing自身も、JavaOpenGLバインディングであるJOGL 2.0にも対応した事により、 描画パフォーマンスに関してもかなりの前進が見られたようなので、まだまだ様々な分野で活用できそうだ。

なお、彼は日本からのワークショップなどのオファーがあれば是非行ってみたいとの事。サイエンス系でもアート系でも、データの可視化に興味がある研究機関や企業さんは、彼を日本に招待してみませんか?今は日本が大変な時期なのでタイミングが悪いかもしれませんが、もう少し落ち着いた頃なら、私も通訳ぐらいならしますよ。

さらに、昨日のポスター発表にて東京大学からの発表もあったのだが、妙に洗練されたデザインだなと思っていたら、やはりというか、作っていたのはメディアアート出身の方だった。お話ししてみると、私の郷里にある大学院に所属していた事もあるとの事で、思わぬ出会いとなった。次回日本に行ったときには是非彼のラボも訪問してみたい。

とりあえずそろそろ飛行機が出るようなのでここまで。